弟子から見たショパン

最近ショパンに凝っています。考えてみれば、ショパンが生きたのは1800年代始めで、日本では江戸末期でした。すでにフランスでは革命が起こっていたとはいえ、貴族社会の末期であり、現代のように無数の消費者が居た訳ではありません。

ショパンは生活費を稼ぐため、大勢の生徒を教えていたようです。主に貴族の子女で、一部プロのピアニストが含まれていました。一世を風靡した大芸術家、演奏家、作曲家ならば、もし現代なら生徒を取ることなど考えられません。印税収入で億万長者になっていたはずです。ところが、ショパンはそんな訳には行かず、パトロンのジョルジュ サンドから見放された後、一日に7名の生徒を教えたこともあったとか。

しかし、そのおかげで、表題にあるような本が生まれることになったのです。この本はショパンの研究家で楽譜校訂者でもあるジャン=ジャック エーゲルディンゲル氏が1988年に出した本で、日本語訳が音楽之友社から出ています。これが実に興味深いのです。

ショパンが同時代の作曲家、リストやシューマンと比べても図抜けた才能であることは現代ならば判ります。その秘密は何か。それが、この本に出てくる、ショパンの弟子たち(150名くらいいたそうです)により、生き生きと証言されています。

「まず、ミ ファ♯ ソ♯ ラ♯ ドを弾くことから始めなさい。短い親指と小指で白鍵、長い人差し指、中指、薬指で黒鍵を押さえるのが最も自然で容易いのです。最後にハ長調の音階を。これが一番難しい」と述べています。ショパンの曲では変二長調とかロ長調とかの♯や♭がたくさんある楽譜が多い理由が判ります。ピアノで表現しやすい(弾きやすい)からです。ハノンやバイエルにこだわっても前に進みません。

ショパンは極端に強いピアノの音には耐えられなかった。「犬の吠え声」と言っていた。「鍵盤を撫でるくらいでいいのです。絶対に叩いてはいけません。」ショパン自身の演奏では、大きな音は出さず、小さな音はかすれんばかりだったそうです。一般のffがせいぜいmfくらいだったとか。

「イタリアの歌い手たちをお手本にしなければなりません。」ショパンにあってはまず歌。ピアノで歌うことが最も重要だったのです。「レガートでない演奏は鳩撃ちだ。」

「半音階の弾き方のいろいろ。1)親指、人差し指、中指で、2)中指、薬指、小指で、3)3度で同じ指をすべらせる方法で、4)6度で、5)オクターヴで。」2)はエチュード10−2、3)は25ー6、4)は25−8、5)は25−10でそれぞれ表現されています。

「手首はまるで歌手の息継ぎのように使う。」とは、歌手が歌う時は8小節くらいを上限として息継ぎが必要で、それが抑揚の一部となっていますので、ピアノでもそのようにというものです。息継ぎの変わりに手首で呼吸するということのようです。決して同じリズムで永遠に引き続けてはなりません。

とにかく「歌って」「息継ぎを入れ=テンポルバート」「大きくない音で」ということのようです。なるほどです。

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