ピアノのお稽古をした方にとって、モーツァルト、ハイドン、ベートーヴェンなど、ウィーン古典派と呼ばれる作曲家のソナタは馴染み深いものです。ソナチネやソナタアルバムに入っているからです。
18世紀の後半、貴族社会の末期、主に貴族のお嬢さんにお稽古をつける目的で、宮廷音楽家が作曲した作品です。ヘンレなどの原典版楽譜では、献呈された人と作曲年が書いてあり、それとわかります。
ソナタ形式を創作したのはハイドンです。より有名なモーツァルトやベートーヴェンも、ハイドンのソナタを真似して作曲したのです。主に3楽章で、急、緩、急となっており、1楽章では特徴的な転調があります。貴族の子女が飽きないように、注意深く構成されたことでしょう。
ハイドンは長命だったため、モーツァルトが亡くなってからも(1791年)、作曲活動をしています。ハイドンの最後期のピアノソナタは、ベートーヴェンの最初期と時期的に一緒です(1794〜5年)。
ベートーヴェンの時代になると、貴族(王族)社会は次第に貴族起源の富裕市民(ブルジョアジー)の社会に変化して行きますので、ピアノソナタの作曲の目的も変わってきます。例えば、ベートーヴェンのソナタ21番(1803年)は、ワルトシュタイン伯爵(貴族男性の音楽愛好家)に献呈されています。モーツァルトの晩年あたりから、作曲家は音楽愛好家が求める楽譜を売って生活するようになります。
自分の生徒の女性が演奏する目的で作った作品は、当然ながら親しみやすく、容易に取り組めるものとなります。現代でも、ピアノ初心者に与えられるには、そういった理由があるのです。
音楽愛好家のために自由に発想された、より高度なピアノソナタはベートーヴェンが開拓し、シューベルトが続きましたが、ショパンやリストの時代(1830〜)になるともう陳腐とされてしまいました。
高度な演奏能力を持った人にとって、形式ばってだらだらと長い古典的ピアノソナタは趣向が合わなくなってしまったのでしょう。
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