ショパンの弟子による証言、ショパンが書こうとして果たせなかったピアノ教則本、そしてショパンの曲からショパンが生前どんな演奏をしていたかが大体判ってきました。とにかく大きな音は出さなかった、あるいは出せなかったようです。それでいて、当代随一の名ピアニストとして自他ともに認めていました。
リストやメンデルスゾーンと連弾する際でさえ、普通上級者が担当する低音部を常に弾いていたことからも、ショパンの演奏家としてのランクが『最高」であったことが伺えます。もちろん、作品の素晴らしさに引っ張られていたことは充分に考えられますが。
そんなショパンが自作を弾いたように弾くピアニストは現代に居るのでしょうか?
大きな音でバリバリと弾きこなす人はまず落第です。とすると、ポリーニ、アシュケナージ、アルゲリッチ、オールソン、などなど、ショパンコンクールの上位入賞者は作曲者が弾いたようには弾いていないということです。昔のルービンシュタインやホロビッツも多分×。リヒテル、ギレリス、ベルマンなど旧ソ連系も×。
しかし、ショパンの弟子から直接教えられた人が居るとすれば期待が持てます。時代が時代だけに直の弟子は録音を残してはいません。ただ、ひ孫弟子ならいます。
ショパンの弟子の中でも有名なカルロ ミクリ。この人は初期のショパン全集の楽譜を校訂しており、今でもシャーマーから出ています。ミクリの弟子だった母親から教えられたのがステファン アスケナーゼというポーランド生まれのユダヤ系ピアニスト。その弟子で同じポーランド系ユダヤ人にアンドレ チャイコフスキーが居ます。
アスケナーゼは有名なアシュケナージとは全くの別人で、世界的な演奏活動はあまりしていなかったようですが、独DGに録音しており、タワレコから復刻されています。軽妙洒脱な演奏です。
アンドレ チャイコフスキーは更にマイナーですが、最近出た「リビングステレオ ボックス 第3彈」の中に、2枚のCDが入っています。モーツアルトが1枚とショパンが1枚。これらがとても素敵です。ショパンが愛奏した曲で組んだプログラムも◯です。
ショパンがマズルカを弾くのを聴いたマイアベアーは、「2分の2拍子でしょう」といってショパンを怒らせたそうです。楽譜は4分の3拍子ですが、ショパンの演奏では最初の拍子が長かったので、2分の2に聞こえることもあったそうです。
そんな演奏が聴きたければ、マルクジンスキーのCDはどうでしょう。EMIの個人全集が安価で出ています。マルクジンスキーのマズルカはLP時代の定盤でした。
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