効果と侵襲:アイステントの場合

すべからく手術というものは、生体に何らかの傷をつけるものですから、副作用が全くないというものではありません。これを侵襲(invasion)と言います。手術の進歩とは侵襲が少なくなることと、効果(benefit)が強くなることのどちらか、あるいは両方が達成されることを言います。

 

白内障手術に例を取ると、折りたたみの眼内レンズが開発されることにより、創口が小さくなったことは侵襲が少なくなったことを意味します。レンズの性能は折り畳みでも一体型でも変わらないとしても、傷の大きさが小さくなることにより、早期回復、惹起乱視の軽減、手術時間の短縮などが期待できます。一旦このトレンドが始まるともう元には戻れません。超音波白内障手術導入初期は、創口の大きなECCEにこだわる人もおられましたが、今や全く絶滅してしまいました。

 

同じような進歩が最近、緑内障手術の分野でも起こりました。最小侵襲緑内障手術(MIGS、minimally invasive glaucoma surgery)です。白内障手術の際に作る2〜3mm幅の角膜切開をそのまま利用して、隅角鏡を用いて隅角に操作する方法です。

 

いくつかの方法がありますが、中でも最も侵襲が少なく、効果も大きいのがアイステントです。アイステントは第二世代のiStent inject Wに進化してから、眼圧下降の効果が目覚ましいことがわかってきました。当院の成績でもそうですが、パブリッシュされた論文でも同じようなものです。

 

術中術後の出血がゴニオロトミーなど他の方法に比べて少なく、術後1日目にして視力にはほとんど影響しません。侵襲の少なさでも最先端を行っています。昔、経結膜トラベクロトミーに苦労した世代にとってみると、全く夢のような術式です。

 

欠点はただ一つ、コストが高くつくことです。手術料金の1/3以上がこの製品に持っていかれます。毎月の支払いをみるとうんざりします。しかし、これはなるべく見ないようにして、また忘れるようにして、素晴らしい結果を患者さんと共に喜ぶことにしています。

 

折りたたみ眼内レンズ、25G硝子体カッター、LASIK、ICLなどと並ぶ、素晴らしい眼科のinnovationの一つです。

 

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