多焦点IOLの適応

多焦点IOLの認知度が上がってきたせいか、白内障手術で来院された患者さんの多くが多焦点のことをすでにご存知であり、「自分にはどうでしょうか?」とおっしゃいます。多焦点IOLが合うかどうかは大きな問題です。

 

多焦点IOLの特性はピントの位置を複数に分けていることです。単焦点レンズで遠くにピントを合わせた場合、近く40cmはピントがボケますので視力は0.1程度です。しかし老眼鏡でピントを近くに持ってくると、読書視力1.0も可能です。近く40cmにピントが合うテクニスマルチでは、遠くの視力を維持しつつ老眼鏡を使わなくても0.7程度の視力は可能であり、メガネなしで読書ができます。

 

というと良いことばかりのようですが、実は、光学特性から言うと、単焦点レンズがもっとも優れており、ピントを分けるほど悪くなるのです。カメラのレンズで解像度をあげる(シャープでキレイな写真が撮れる)ためには、可視光線の全波長においてなるべく1箇所にピントが合うように設計します。もちろん収差(レンズの中央と周辺における屈折の差)は少ないほど良いのです。

 

ピントの甘い多焦点IOLでも問題ないと感じるのにはいくつかの条件があります。

 

1)メガネ、コンタクトから解放されたい意識が強いこと。たとえば、高度な近視で中年になってもコンタクトをされている方は多焦点IOLのよい適応になります。一方、普段からメガネでの生活に馴染んでおられる方は、術後もそのままメガネをご使用いただくのがもっともよい視機能を得られますので、わざわざ多焦点にする必要はありません。

 

2)認知機能が優れていること。ピントの甘い画像からシャープな像を組み立てるには、正常な脳の働きが必要です。最近はコンピューターの働きにより、ぼけぼけの画像をシャープなものに改良する技術が進歩してきているのと同様、私たちの脳にもそのような適合作用があります。これをneuro-adaptationと言います。したがって、高齢者では多焦点レンズをお勧めしません。

 

3)視機能が優れていること。眼底疾患などで視力が低下している場合は、多焦点レンズをお勧めできません。

 

性格的には、前向きで楽観的な方に向いています。お月さんが欠けているのが気になるような神経質な性格には向いていません。夜の運転でハロ、グレアが気になることがあります。また、暗い場所でのお仕事にも向いていません。

 

これらのことを調べていくと、10人の希望者のうち、実際に使用するのは3名程度になるでしょうか。どちらが良いか迷った場合、単焦点にするのが無難です。

 

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