研究の環境

昨日ノーベル物理学賞に輝いた真鍋淑朗先生は、東大理学部の大学院を卒業したあと渡米され、2000年頃の数年を除いて米国に滞在されている方です。「米国では研究費の心配をすることなく、自由に研究できた」とおっしゃり、「今の若い人も海外に飛び出すように」ともおっしゃっています。海外の方がずっとよい環境と認めてらっしゃいます。

 

「Curiosity(好奇心)を失わないことが研究の秘訣」だそうです。経歴を見ると、法人の研究員から始まり、プリンストン大学では客員教授を務められ、70歳を超えてから再度上級研究員に迎えられて、90歳の現在でも研究者として現役です。

 

西欧社会では基礎研究を支えるシステムが確立しています。例えば「Europian Research Council(ヨーロッパ研究評議会)」のホームページを見ると、「世界のどこへでも、一流の研究者にサポートする」とうたっています。額はスタートファンド(PhD取得後2~7年)で総額2億円(5年間)と巨大です。そのかわり、その選考はまことに厳しく、かつ、公平なものです。最終選考会では、20名の評議員の前で面接があり、いろいろな質問をされるようです。

 

このようなファンドを得ることができるということは、その分野で世界的に認められたことに外ならず、その後の研究者生活に大きく有利に作用するでしょうし、その後そのうちの何割かがノーベル賞を取ることになると言われています。今回のノーベル物理学賞の受賞者の3人のうちのお一人もこのグラントの受益者だったようです。

 

そうなると、その財団の値打ちも上がるというものであり、ウィンウィンの関係になります。西欧社会はこうして、科学技術の発展を支えてきたのです。研究を助成する財団の中身は元貴族の資産家で、世界的企業のオーナーでもあります。財団の目的は資産を維持することと同時に、ノブリスオブリージェを実行することです。

 

日本ではまずこのような資産家が育っていません。また、研究費の額が少ないのはともかくとしても、ピアレビューに基づいた公正な審査のシステムがありませんので、創造力に溢れた若手の研究者が羽ばたきにくいのです。

 

海外の研究者は研究費を得てから大学のポストにつくのが普通です。権威あるファンドを得たら引く手あまた。複数の大学から声がかかります。日本だと全く逆ですね。組織に属することが先決です。このあたりが本質的な違いです。

 

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