緑内障だから白内障手術??(2)

緑内障白内障手術との関係は濃厚です。前回は(1)として、狭隅角(閉塞隅角緑内障)の治療手段であることを書きました。しかし、話はそれに止まりません。POG(開放隅角緑内障、普通に緑内障といえばこれ)とも密接に関係しています。

 

POGの治療は「眼圧を下げること」です。しかし正確には「十分に眼圧を下げて視野変化が進行しないようにすること」と言い換えるべきかと思います。眼圧が有意に下がっているとしても、視神経障害が進行するのであれば治療とは言えません。「十分に」下げる必要があるのです。

 

では、その十分とはいかばかりか?これは人によって様々です。眼圧の正常値は20mmHg以下とはよく言われますが、この数字は全くあてにはできません。眼圧が常に20数mmHgでも全く異常のない方がおられるかと思うと、20以下を保っていてもPOGが進行することがあるからです。

 

一方、眼圧は生理的に10〜12(mmHg)以下に下がることはありません。眼の周囲の静脈圧(episcleral venous pressure, EVP)がこの程度だからです。これ以下に下がると、眼内の栄養を補う房水循環が停止して、眼は萎縮し、長期に及ぶと失明に至ります。

 

生理的な範囲では、眼圧の最低ラインが12〜15になることがわかります。緑内障の治療の最終ゴールもここになります。眼科医の仲間内では「ローティーンを目指す」と言います。

 

生理的な眼圧値の最低を目指すのですから、この達成はなかなか難しいことです。点眼薬を複数使用したとしても、達成できるとは限りません。点眼薬の場合、さし忘れや自己中止が多いのも問題です。

 

そこで白内障手術との関係ですが、単なる白内障手術(+IOL挿入)でも術前に比べ、術後は眼圧が下がる傾向があります。POGの治療を助ける効果ですね。しかも、白内障手術の際に副作用が少なく安全で簡便な操作を加えることにより、さらなる眼圧下降が期待できることがわかってきました。この方法は最近世界的に注目されており、MIGS(minimally invasive glaucoma surgery)と呼ばれます。

 

MIGSにも色々の種類がありますが、今のところ最もエレガントと思われる方法がアイステントです。

 

アイステントは最近さらに進歩し、アイステントインジェクトWになりました。以前のデバイスよりもコンパクトになり、房水流出組織トラベクルムに2箇所設置できるようになりました。眼圧下降効果および効果の持続性が向上したようです。

 

初期のアイステントはトラベクトームや谷戸フックの延長で、いわば侵襲が少なく持続性のあるトラベクロトミー(ab interno)でしたが、インジェクトWになって数段階ステップアップした印象があります。効果が大きくなったことは、術中の出血でわかります。back fluxの量は、昔のトラベクロトミー(ab externo)の効果の指標でしたから。

 

前房と集合管の間の圧差を無くし、前房圧をEVPに近づけることにより、ローティーンを目指す方法と思われます。眼圧下降効果には個体差があるとは言え、POGの患者さんが白内障手術を受ける際には、ぜひ取り入れるべき手術と考えています。

 

ST