CDがLPに抜き返された

先日日本橋の老舗オーディオ屋さんが「ついにCDがまたLPに負けた」とおっしゃってました。ネット配信の普及でCDの需要が頭打ちになり、オーディオ業界ではCDよりもLPが息を吹き返しつつあるということだそうです。

 

LPとはlong playの略で、一分間に33と1/3回転するターンテーブルに乗せて楽しむレコード盤のことです。レコード盤には溝(音の信号)が刻まれており、それを針でトレースして電気信号に変換し、信号を増幅させて最終的にスピーカーから音が出ます。アナログレコードとも言います。

 

一方、CDやネット配信では、音の波形をデジタル信号に置き換え、その信号を再生側でまたアナログ信号に変換し(D/A変換)、増幅させてスピーカーやイヤホンから音を出します。デジタル信号は劣化しませんので、雑音や歪みに弱いアナログに比べ「音が良い」とされていました。

 

しかし、実は1980年代にCDが開発され普及した当初から、CDの方が音が悪い、具体的には、音楽にならない、音色がない、音の高低が判別しにくい、立体感がない、耳障りであるなどと、一部から批判されていました。当初から海外のオーディオ雑誌では、「原音再生はアナログでないとだめ」との意見が一般的であり、LPレコードの需要も途絶えることはありませんでした。日本では官民挙げた掛け声の中、LPは絶滅してしまいました。

 

実際に同じ音源をCDとLPで聴き比べることができます。ラジカセレベルの装置では区別がつきませんが、原音再生を目指したそれなりの装置で聞くと、大抵の場合、LPが圧勝します。LPでは商品を作る段階でのコストのかけ方で大きく差が出ますので、1950〜60年代に作られた黄金時代のLPを用いての話ですが。

 

音の波形はサインカーブを組み合わせた滑らかなアナログですので、それをわざわざギザギザのデジタル波形に分解し、保存するという発想がそもそも間違っていたのでしょう。

 

世の中、デジタル庁が新設されたとかで、何でもかんでもデジタル化すると良いような錯覚を覚えてしまいますが、必ずしもそうとは限らないことがLPの復活で証明されています。

 

デジタル化して装置を大きく、複雑に、高コストにした上で、結果が伴わないというのは、われわれの業界でもしばしば見られます。

 

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