CDの落日

毎日の通勤で往復60kmを運転しています。高速道路を使いますので、時間にすると往復1時間とちょっとくらい。電車通勤よりも早くて楽です。車ではCDを聴くのが楽しみで、だいたい往復で1枚のCDを消費し、大量にある未聴盤を少しずつ減らすことができています。

 

車がちょっと古くなってきたので買い換えようと思いディーラーを訪ねました。あと10年もすれば乗用車はEVになるはずで、それまではなるべく慣れ親しんだエンジン車に乗りたいからです。買い替え車の条件はただ一つ、CDプレーヤーが付いていることです。ところがなんと、新しい型の車からはCDが消えているのです!

 

そういえば懇意にしているオーディオ屋さんが先日お見えになった時、「ついにまたLPの売り上げがCDを逆転したよ、と言っても、ネット配信が増えたからだけどね」と言ってたっけ、と思い出しました。CDは車からも消えつつあるのです(代わりにスマホが繋がるようになっている)。

 

CDが世に出たのは1980年代半ば頃でした。それまでの主流だったLPレコードをあっという間に駆逐し、開発者のソニーは飛ぶ鳥を落とす勢いで米CBS(LPを開発したところ)を買収し、社長の大賀典雄氏は満面の笑みでカラヤンと握手していたことを昨日のことのように思い出します。それが30年、1世代で凋落してしまい、ネット配信に取って代わられました。ソニーサムスンに大きく追い抜かされ、日本経済は失われた30年の停滞からまだ抜け出せてません。

 

CDが出た当初からその音の悪さは知る人ぞ知るであり、原音再生からは遠いものでした。どれだけ装置のグレードをアップしてもLPのような音は出せません。確かに雑音や音の揺れはありませんが、肝心の音がLPに比べると硬く、ギスギスしており、まるで骸骨のようです。同じ音源のLPとCDを聴き比べたらその違いは誰の耳にも明らかです。

 

LPに比べ簡便なだけが取り柄でしたので、さらに簡便なネット配信やYoutubeに取って代わられるのは必然だったかもしれません。

 

CDしか知らない世代は音楽の再生はこんなものと割り切らざるをえず、原音に近い音が目の前で再生できることを知りません。オーディオに投資する楽しみも知ることがありません。結果、ほとんどのオーディオメーカーが倒産いたしました。「CDは音が良い!」と提灯持ちを続けたオーディオ評論家諸氏も廃業いたしました。

 

音の悪いフォーマットを世界標準にしてしまったことにより、破壊的な副作用を生んでしまいました。良い音に浸る喜びがなくなり、スマホやPCで代用するようになってしまいました。「原音再生」という観点からは、人類は退歩し続けています。自然環境が損なわれ続けているのと同じです。

 

しかし、最近は新しい録音がLPで発売されることも少なくありません。いつかオーディオ文化が復活する日が来ることを期待しています。

 

新しい車のCDプレーヤーはUSB接続でなんとかしてくれるそうです。LPはなんぼなんでも無理ですから車ではCDで我慢します。

 

ST