LP黄金時代

LP(アナログレコード)は原音再生の手段として優れています(オーディオファイル)。また、意外なほど経年劣化が少なく、たとえ70年前の製品でも保存状態が良ければ新品と同じように再生可能です。

 

アナログ録音はまずテープに保存するのが普通ですが(マスターテープ)、テープは経年で伸びたり磁気が変化したりと劣化しますので、何10年も経つとLPとして製品化されたものの方が音質が良かったりします。昔の録音がいわゆる「板起こし」でLPからCDに製品化されることがあるのも、テープに比べてLPの経年変化が少ないからです。

 

そんなわけで、1950年〜60年代のLP黄金時代の中古レコードは、未だに珍重され、流通しているのです。

 

この時代のLPが「音が良い」のは常識ですが、その理由はいくつか考えられます。1)ビニールの質が良い、2)録音機材が真空管アンプによる単純な回路で音の濁りが少ない、3)録音方法も2本のマイクによる単純なものでミキシングやイコライジングが少ない、などです。

 

1950年初め頃、戦勝国では国民の旺盛な消費欲に支えられて、LPの製造が始まりました(モノラル録音)。50年代の終わり頃から2チャンネルのステレオ録音になり、さらに人気を博しました。しかし、60年代の終わり頃から古典音楽ソフトの需要が急速に衰え、製造コストが削られるとともに音質が劣化してまいりました。80年代半ばCDが出てくるに及んで、原音再生の時代が潰えたのです。

 

オーディオファイルとして有名なのは、英HMV、英コロンビア、英デッカ、米RCA、米マーキュリーの5レーベルです。特に英国の3レーベルはモノラル、ステレオとも珍重されています。

 

モノラル時代の英HMVはALP****という番号で販売されています。伝説的な名指揮者フルトヴェングラートスカニーニが混在するという豪華さです。コルトー、フィッシャー、ルービンシュタインハイフェッツホロヴィッツもいます。フルトヴェングラーのスタジオ録音はオーディオファイルのはしりであり、70年後の今に至るまで人気は衰えません。ベートーヴェンの1,3,4,5,6、「フィデリオ」、ワグナーの「トリスタン」「ワルキューレ」など。

 

英コロンビアは33CX****で、カラヤンクレンペラー、クリュイタンス、フランソワ、ギーゼキングなど。「トスカ」「ボエーム」「カヴァレリア ルスティカーナ」など、カラスのオペラ全曲録音のほとんどがここにあります。

 

英デッカはLXT****で、アンセルメクナッパーツブッシュベイヌム、シューリヒト、ボールト、クラウス、バックハウス、ケンプ、グルダ、エルマン、スゼー。

 

ステレオ時代になるとHMVASD***となり、ビーチャム、バルビローリ、シューリヒト、ケンペ、シルヴェストリ、メニューインオイストラフ、コーガン、リヒテルポリーニカラヤンバレンボイム、デュプレ、パールマン・・・・。特にシューリヒトのブル8、バルビローリのマラ9、デュプレのエルガーは有名です。

 

英コロンビアは60年代後半でHMVに吸収されますが、それまではSAX****という番号で、優秀録音が目白押しです。カラヤン、クリュイタンス、クレンペラー、セル、フランソワ、アラウ、ジュリアード・・・。カラヤンの「薔薇の騎士」、クレンペラーの「マタイ」、クリュイタンスのビゼーラヴェル、セルのベートーヴェン「合唱」など有名です。

 

最後に英デッカのステレオSXL****はケネス ウィルキンソンという名エンジニアを得て、超優秀録音が多いのが特徴です。アンセルメクナッパーツブッシュ、クベリーク、ミュンヒンガー、ショルティクリップスボスコフスキーバックハウス、ケンプ、カーゾン、テバルディ、モナコ・・・。たとえばエーリッヒ クライバーの「フィガロ」、クナッパーツブッシュの「ワルキューレ第一幕」など。

 

こうして見てみると、録音もさることながら、この時代、演奏家のレベルも半端なく高いことがわかります。

 

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