作曲の背景

わたしは伝記のたぐいが好きで、特に作曲家の伝記は毎日のように読んでいます。昨年生誕250年だったベートーヴェンの伝記はいくつも読みました。最近2回目の読了をしたのが、青木やよひ著「ベートーヴェンの生涯」(平凡社)です。

 

ベートーヴェンに限らず、名作を書いた作曲家がどのような背景で書いたかに興味があるからです。クラシックの大作は現代ではもう出来ません。現代社会が要求しないこともありますし、時代の雰囲気が合わない。ベートーヴェンの真似をして作品を世に問うた詐欺師の心情もなんとなくわかります。

 

ベートーヴェンの時代は何といってもフランス革命の影響が大きいです。貴族社会が崩壊し、市民が発言するようになって、ベートーヴェンのような非貴族の音楽職人のインスピレーションが最大限に刺激されたであろうことは容易に想像できます。

 

1790年ごろのソナタと1800年になってからでは、自由な発想、感情の発露という点で大きな違い(進歩?)があります。月光ソナタ、熱情ソナタなどです。

 

青木さんによれば、ベートーヴェンの女性関係と作品のからみもまた面白いです。有名な「エリーゼのために」はベートーヴェンの恋人とされたテレーゼのためにを間違えて表記したとの説がありましたが、青木さんによればエリーゼとは作曲家フンメル夫人のエリーザベトのことだそうです。

 

テレーゼのためには作品78という立派なピアノソナタがあり、簡素な「エリーゼのために」とでは違いすぎます。後者は素人が弾きやすく、親しみやすい曲想であり、フンメル夫人のためと考えた方が自然ですね。

 

1810年ごろ、ベートーヴェンは人妻に恋しています。これが青木さんによるといわゆる「不滅の恋人」で、お相手はアントニア ブレンターノという、イタリア系の女性です。最初はアントニアと夫が不仲で、ベートーヴェンがなぐさめているうちに親しくなったとか。

 

ところが、すぐに別れの時がやってきました。カルロヴィヴァリ(ボヘミアの保養地)での出来事です。ベートーヴェンは夫人と別れたあとも家族付き合いをしており、10年ほど後に、夫人には「ディアベリ変奏曲」娘にはピアノソナタ作品110(30番)という、とっておきの名曲を献呈しています。よほど大事な相手だったのでしょう。

 

ベートーヴェン以降のいわゆるロマン派の作曲家は、すべからく貴族社会から市民社会への移行のはざまで産み出されたものでした。この時代特有であり、二度と再現不可能な出来事でした。

 

シューベルトウェーバーベルリオーズシューマンショパンメンデルスゾーン、リスト、ワグナー、ヴェルディなどです。クラシック音楽のコアなメンバーがほぼ同世代です。

 

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