術後早期角膜障害

白内障手術により視力の回復が見込まれるのは当然とはいえ、術翌日、あるいは数日でよく見えるようになるとは限りません。今でこそ、術翌日に視力1.0以上に回復することも多くはなりましたが、昔は(30年前)1週間たって1.0が見えると予想外の喜びでした。

特に、最近では、多焦点IOLの移植術で、術後の「裸眼」視力の改善が期待されていますので、医師側にとっての敷居がとても高くなっています。

そこで注目されているのがドライアイです。ドライアイとは涙の分泌不足、あるいは蒸散過多により眼表面が乾く状態で、場合によっては視力低下を伴います。LASIK術後の一時的な視力不良の原因として重要ですが、白内障の術後にはそれほど問題視されてはおりませんでした。

ところが、術後早期には眼表面の傷、つまりはドライアイの症状が多発していることがわかってきました。特にご高齢で、もともと涙が乾き気味の患者さんでは頻発し、視力低下の原因となっています。

原因として、手術そのものの機械的刺激および、術前後に投薬する抗炎症薬が考えられます。

ステロイド系抗炎点眼薬(NSAID)は、眼内レンズによる網膜の炎症を押さえる特効薬とも言うべき薬ですが、時に術後早期の角膜びらん、点状角膜障害の原因ともなりますので、注意が必要です。

炎症も角膜の傷もどちらも視力低下につながりますので、薬の注意深い、適切な使用法が大切になってきます。視力低下の原因が角膜の傷ならば、抗炎症点眼薬を中止し、角膜保護の点眼に切り替える必要があります。

NSAIDについては、術後、全例に投与すべしとの考えが見直されつつあります。たとえばこの論文などです。

糖尿病や黄斑前膜などがなければ投与する必要がないとすれば、多焦点移植の場合、術後視力が安定するまで投与を控えるのが正解かもしれません。

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