双眼倒像鏡

今週は白内障などの定期手術をお休みしています。ちょっとゆっくり外来をして、と思ってましたら、月曜日と火曜日に連続して網膜剥離患者さんが来られました。

予定手術が無かったのを幸い、両日ともお昼から網膜剥離の手術を行いました。

剥離の手術では、網膜に開いた孔(裂孔)の周りを冷凍または光凝固し、バックルを縫い付けて強膜側から排液するか、または、硝子体手術の方法でガスにより網膜を伸ばします。

裂孔周囲の凝固の際、双眼倒像鏡という器具を使うのが常です。双眼倒像鏡は網膜の専門家にとってお箸やスプーンのようなもので、これをいかに上手に使いこなすかがポイントでした。

実は、昭和50年頃までは双眼倒像鏡がなく、単眼倒像鏡を使うか、あるいはブラインドで強膜側から裂孔とおぼしき部分に熱凝固の針をさすという、とても野蛮な手術でした。このころ、ボストンのスケペンスというお医者さんが開発したのが双眼倒像鏡で、これを用いたボストン一派の華麗な網膜剥離手術はまたたくまに世界に普及したのです。

ということで、長年愛用してきた双眼倒像鏡ですが、硝子体手術の広角観察システムを用いますと、手術顕微鏡下で周辺部の凝固が可能となっていますので、双眼倒像鏡なしでも済ませることができます。

外来では、倒像の原理とデジタル技術を融合した、広角眼底カメラが普及してきています。

網膜専門家にとって使いこなすことが生き甲斐だった双眼倒像鏡も、次第に時代遅れなものになっていくかもしれません。