網膜剥離手術

最近網膜剥離(RRD=rhegmatogenous retinal detachment)の手術が多いです。RRDはバックル+冷凍凝固+排液(強膜バックリング手術、SBP=scleral buckling procedure)で治すのが常識でしたが、ここ20年くらいで次第に硝子体切除+光凝固+ガスタンポナーデ(硝子体手術、PPV=pars plana vitrectomy)の比率が増えてきています。

 

網膜剥離手術では網膜裂孔をいかに閉鎖するかがポイントです。SBPではバックルを縫い付けて強膜を内陥させ、クライオ(冷凍凝固)により裂孔周囲を癒着させますし、PPVではガスで内側から網膜を押さえてPC(光凝固)により癒着させます。結果は同じです。

 

SBPは術中、術後の痛みがやや強いこと、裂孔が多い、あるいは奥にある場合対処に困る(手術が難しくなる)こと、硝子体混濁や黄斑前膜が残ること、黄斑部の復位に時間がかかることなどの欠点があります。ただ、術後の安静は仰臥位で比較的楽です。

 

PPVは痛みが少なく、手術時間も短縮されます。また、裂孔の数、位置に関係なく行え、裂孔が大きくても手術難易度は変わりません。硝子体混濁や出血を同時に取り除くことができ、黄斑部の復位も早いので1〜2週間でガスが無くなったらすぐに視力回復できます。また、SBPのように屈折が変化することがありません。

 

しかしPPVの欠点はガスタンポナーデを行うことで術後の体位が基本伏臥位となり、不自然な姿勢を要求されることと、ガスにより白内障が発症し、後日白内障手術を行う必要が出てくる可能性が高いことがあります。

 

SBPとPPVは併用して行うこともできます。PPVにバックリングを併用すると復位率が向上します。

 

SBPとPPVは上手に使い分けるのがコツです。白内障手術を避けたい40歳以下のRRDで、裂孔は周辺部に単独か1象限のみという条件であればSBPがベターです。中年以降の急性硝子体剥離に伴う裂孔によるRRDはPPVの良い適応です。巨大裂孔、後極部裂孔、黄斑円孔などは当然PPVです。

 

症例によって選んで行くと、どうしてもPPVが多数を占めるようになってきます。今やPPVがRRDの標準術式となりました。

 

SBPはなかなか難しい手術です。一発でバックルの位置を決め、排液、縫着をするのは経験が要ります。SBP特有の合併症対策も必要です。小生は1980年代、年間30例以上のSBPを行っていたとは言え、今でもSBPの方がPPVよりも神経を使います。今後、症例数の少ないSBPの教育をどうするかが眼科の課題となってくるでしょう。

 

SBPにおける冷凍凝固の方法について、開業した頃はまだ双眼倒像鏡をかぶっていましたが、シャンデリア照明が普及するにつれ、顕微鏡下で行うように変化しました。最近は双眼倒像鏡がお蔵入りしています。

 

今週月曜に行ったSBPの患者さんは、スパッと下液が消失し、裂孔閉鎖され、OCTで黄斑剥離の消失も確認されましたので、術後4日で紹介元へ返すことにしました。ガスの消失を待つ必要がなく、結論が早いのもSBPの良さです。

 

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