PAPと濾過手術

PAPとはProstaglandin Associated Periorbitopathyの略で、緑内障の点眼治療の第一選択として用いられる点眼薬、プロスタグランジン製剤の副作用であり、眼周囲の組織に及ぼす影響の総称です。

 

睫毛乱生、色素沈着、眼瞼下垂、眼瞼肥厚、眼球陥凹などがPAPの実態であり、最終的にはゴールドマン眼圧計による眼圧測定が困難になってきます。TanitoらはPAPの重症度分類を行っており、Grade 0、1、2、3の4段階に分けています。Grade別に濾過手術の成功率を調べたところ、Grade3では術後1年の濾過手術の生存率が(なんと!)0%と報告しています(Ophthalmology. 2023 Mar;130(3):297-303.)

 

PAPによりなぜ濾過手術の成績が悪化するかはよくわかっていません。眼瞼肥厚と眼球陥凹により手術そのものが難しくなること、眼瞼肥厚によりブレブ(濾過手術で房水を貯める結膜のコブ)ができにくくなること、結膜組織が薄く、弱くなることなどが、原因として考えられます。

 

前にも何度も書いてますように、濾過手術(LEC)は緑内障手術の切り札であり、中〜末期のPOAGで失明を免れるためには重要な術式です。PAPの進行で手術の成功率が激減するならば、進行する前に手術を試みるべきと考えられます。

 

プロスタグランジン製剤の中では、ビマトプロスト>トラボプロスト>タフロプロスト>ラタノプロストの順でPAPの危険が大きいとされています。長期に使用するならラタノプロストかタフロプロストがベターです。PAPは点眼を中止しても回復するのに半年以上かかります。

 

実際にはPAP Grade2〜3で濾過手術を余儀無くされる症例は数多いです。PAPとの戦いが濾過手術最大の課題と言えましょう。極端に薄く、弱くなった結膜でブレブを作れるかがポイントです。

 

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