Gazzard先生の講演

この連休は外出をすることもありませんので、先日行われた日眼のウェブ講演を見ておりましたところ、なんと、イギリスからGus M Gazzard先生の講演が組まれているではありませんか。この先生は当ブログでも何度か紹介した緑内障のレーザー治療(SLT)の権威で、POAGの治療手段として、SLTが点眼薬に代わるファーストチョイスとなることを初めて示された方です(Lancet 2019 Apr 13;393(10180):1505-1516.)

 

この研究は3億円の研究費を費やし、5年をかけて6箇所の眼科施設において718名の患者に対しRCT(ランダム化比較試験)を行ったものです。RCTですからその結果にはとても信用が置けます。何を調べたかと言いますと、緑内障または高眼圧症の未治療の患者に対し、

 

A)SLTで治療をする

B)点眼薬で治療をする

 

の2群に振り分け、比較検討しています。点眼薬は1.PG製剤、2.β阻害剤、3.炭酸脱水素酵素阻害剤(CAI)、4.α刺激剤の順番で4種まで使用できます。A)でも効果が不十分な時はB)を試せますし、その反対も可能です(医療倫理上の問題からです)。

 

その結果、1.眼圧下降効果は両群差がなかったものの、2.目標眼圧達成率、3.視野の進行阻害ではA)が有意に優れており、最終手段である濾過手術に至った症例の数は3年後でA)が0例、B)が11例(1.8%)、6年後でそれぞれ8例、29例と大差がついたのでした。

 

なお目標眼圧は高眼圧症で<25mmHg、mild POAGで<21mmHg、moderate POAGで<18mmHg、severe POAGで<15mmHgです。

 

差がついた理由として推定されているのが、両群におけるアドヒアランスの差です。A)は一度SLTを行うと1〜2年有効ですのでアドヒアランス100%であるのに対し、B)では点眼忘れ、充血など副作用による自発的中断により、診察時の眼圧は差がなかったとしても、全体としての眼圧降下作用が不十分であった可能性があるからです。緑内障点眼のアドヒアランスはせいぜい70%以下との別の報告もあります。

 

なおSLTは一度の追加照射が許されており、2回目でも更なる効果が期待できるとのことです。

 

本研究は「緑内障と診断されたらまず点眼薬で治療を開始する」との従来の考えに見直しを迫るものです。Gazzard先生のご意見では、緑内障の治療はまずSLTで開始し、経過観察中に視野変化があればSLTまたは点眼薬の追加を検討し、最終手段として濾過手術を行うというものです。これは当院でも2年前から実行しています。

 

なぜ点眼薬フリーが良いのかと言いますと、1.アドヒアランスの問題以外に、2.緑内障点眼薬による充血、眼球陥凹、色素沈着、角膜上皮障害などの副作用、3.手術やレーザーの効果に対する悪影響、4.医療経済への圧迫、などの理由が本講演で述べられています。

 

本講演では触れられていませんが、MIGSを加えることにより、より高率に点眼薬フリーを実現できます。SLT+MIGS+レクトミー=点眼薬に頼らない緑内障治療

 

POAGの治療において、ようやく新しい時代がやってきました。白内障手術における超音波摘出、屈折矯正におけるLASIKに匹敵するパラダイムシフトです。Do you still stick to eye drops?

 

ST