幻想即興曲

ショパンの数多い名曲の中でも、多分最も有名な曲が幻想即興曲です。4曲ある即興曲の一つで、生前には出版されず、弟子(友人)のフォンタナがショパンの死後に出版しましたので、作品66と遅い番号になっていますが、実際に作曲されたのは1835年ごろ(ショパン25歳の頃)とされています。

 

コルトーが言うには、「この曲がなかったら女性のピアノ学習者がもっと少なかったであろう」とのことで、特に女性に人気であり、ピアノを習ったらまず練習したい曲になっています。曰く「アマチュアでも上手く聞こえる曲」とのことで、しかしながら、細かい音をきっちり表現するのはとても難しい曲ともされています。

 

この曲は昔から知られているフォンタナ版以外に、1962年にルービンシュタインが発見した別バージョンがあり、それ以降、こちらの方がいわゆる原典版としてエキエル、ヘンレ、ペーターズなどで決定稿扱いされています。なお、パデレフスキー版やコルトー版などの古い楽譜はフォンタナ版しか載ってません。

 

この曲が生前発表されなかった理由は、デステ男爵夫人という個人のために作曲された曲だったからとされています。ルービンシュタインが発見したアルバムリーフに、dedicated toではなくcomposed for~と書かれているのです。個人から報酬を得て作曲されたので出版することができなかったのでした。フォンタナが出版した当時も夫人の権利が生きており、やむなく出版の際初期稿を使ったものと思われます。

 

両版を比較すると、当然ながら圧倒的にデステ夫人の最終稿が優れています。右手の音型はほとんど一緒ですが、左手の表現、ハーモニーの複雑さが全く違います。フォンタナ版でこの曲を覚えた人は、是非、デステ夫人版も試してみてください。その違いに驚かれることでしょう。

 

ルービンシュタイン自身が校閲した楽譜も出版されておりますが、エキエルなどの原典版とはまた多少の異同があります。偉大な演奏家による楽譜シリーズで出ています。

 

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