モーツァルトのピアノ

モーツァルトの時代は、ピアノといっても今とは異なり、ハープシコードの進化したフォルテピアノでした。また、当時の進歩のスピードは早く、同じ時代に色んな楽器が共存していました。

 

当時最も進んだ(現代のものに近い)ピアノはイギリス製で、モーツァルトより4才年上のクレメンティは、子供の頃からこの楽器に親しんでいたのに対し、モーツァルトの幼少期は、よりデリケートで音量が小さく、ペダルも不完全なウィーン製のフォルテピアノでした。

 

モーツァルトは21才の頃(1777年)新しいシュタイン製のピアノに出会い、膝で使うダンパーペダル(今の右ペダル)でより繊細な音色が出せることに喜んだと言います。ピアノソナタの7番以降はそのピアノで作曲されました。

 

ということは、中〜後期のピアノソナタはペダルの使用を前提としていることになりますが、現在出版されている原典版楽譜ではもちろん、ペダルの指示はありません。ベートーベンの実用版楽譜ではあれだけ詳細にペダル指示を加えたカゼッラ版でも、モーツァルトソナタ楽譜ではペダル指示がありません。

 

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カゼッラ編リコルディ版モーツァルトソナタK545冒頭

右ペダルを指示した全曲楽譜はないものかと探しましたところ、見つけました。著名な作曲家バルトークが編集したムジカブタペスト版です。

 

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バルトーク編ムジカブタペスト版モーツァルトソナタK545冒頭

ギーゼキングのような教条主義的なピアニストはあまりペダルを使っていませんが、ペダルを使うことにより音色が柔らかくなり、音の粒の不揃いが目立たなくなり、メロディーを歌いやすくなるなど、良いことだらけです。

 

現代ピアノならなおさら、作曲者自身も使用した右ペダルを使わない手はないと思います。

 

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