ショパンの楽譜

ショパンはベートーベンやバッハと並んで、作品のほとんど全てが出版されている数少ない作曲家の一人です。それだけ人気があるということです。また、世界中のいくつもの出版社から重複して出版されており、どれを選んだら良いか迷うこともあるかも知れません。

 

しかしながら、ベートーベンではオーセンティックな「原典版」と称するだけでも、ベーレンライター、ウニヴァーサル、ヘンレ、ペータース、ブライトコップフ、クルチ、リコルディなど、多数が争っているのに比べ、ショパンでは選択肢が限られます。ポーランド国立出版のエキエル版、同じくパデレフスキー版、およびドイツのヘンレ版くらいです。ペータースは全集を試みているものの完成していません。

 

サラベールのコルトー版、クルチのカゼッラ版、ブライトコップフのフリードマン版、シャーマーのミクリ版など、魅力的な楽譜もショパンには多いのですが、いずれも最近の研究を取り入れた原典版とは異なります。

 

そんな中、アマチュアが楽しむために最も優れているのは(もちろんプロにとっても)、エキエル版です。ショパンと同郷の偉大な編集者(兼ピアニスト)ヤン エキエルが生涯をかけて取り組んだ楽譜で、やや高価ではあるものの、それだけの値打ちは充分にあります。

 

特筆すべきは指使いです。そもそもショパンの作品は、全て人間の手に馴染むよう作曲されており、指使いは自ずと定まってくる傾向がありますが、ショパン独自のピアノ奏法もありますので、指使いを間違えるとなかなか上達しません。

 

エキエル版ではショパンの指示を太字で示し、編集者のものと区別してあります。まず、ショパン自身が用いた指使いで練習するべきなのは言うまでもありません。

 

ショパン自身がピアノ教師であり、多くの弟子に教えた書き込みが多数残されており、エキエルはそれらを可能な限り取り入れています。ショパンが校訂したかのようなエキエル版は、今のところ決定版と言えるでしょう。

 

その辺りの事情は、ジャン=ジャック エーゲルディンゲルの「弟子から見たショパン」に詳しく書いてあります。

 

エキエル版ではショパンが生前に出版した作品と、弟子のフォンタナが没後に整理した作品などを別々にしてあります。結果、ショパンの意図がよりよく理解できます。編集者のショパンへの愛が伝わってきます。

 

ST