ベーレンライター版ベートーベン

休暇など、時間があれば楽譜を見ていることが多いです。癒されます。

以前、ベートーベンのピアノソナタの楽譜について書きました。あれから1年近く経ちましたので、また続きを書いて見ます。

前回はピアノソナタの全曲楽譜を6種類比較して検討しました。そのうち、演奏の指示が最も徹底しているのがカゼッラ校訂のリコルディ版であることを述べました。

ベートーベンが書いた通りを可能な限り再現した「原典版」は独学には難しいとも書きました。現代ピアノで演奏するにはペダル、スラー、強弱、アクセント、トリルの分解などが不十分だからです。もちろん、指使いも書いていません。

そんな原典版の中でも、最右翼はベーレンライター版でしょう。可能な限り自筆譜を再現し、無い場合は初版に近いものから選んでいます。(右)ペダルの指示もほとんどなく、指使いは全くありません。

リコルディ版と比べると全然違う曲のように見えます。

ベーレンライター版ベートーベンは全集では出ておらず、作品番号単位で発売されており、まだ全曲は完結していません。

「悲愴」「葬送」「月光」「ワルトシュタイン」「熱情」などの有名どころは揃っています。

この真っ白な楽譜によると、音符以外のベートーベンの指示が少ないからこそ、一つ一つがすごく価値があるように思えます。作曲者による指示を虚心坦懐に見つめ、一度その通りに弾いてみると、また違った趣があります。やっぱり、ここが原点かと思います。

右ペダルはほとんど踏まず、指示がないところではどうしても演奏困難な場合に止めます。左ペダルは使いません。

例えば、熱情ソナタの2楽章。冒頭の主題でスラーが無く、ペダル指示もありません。しかしここは、多くの編者が指示するように、レガートに旋律をつなげるべくペダルを使用することをベートーベンも意図していたことでしょう。

ジョナサン デル マー氏によるベーレンライター版ベートーベンは、曲ごとの解説記事も面白く、印刷が見やすく、譜めくりがしやすいという、練習にもってこいの楽譜です。

原典版として前回推薦したアラウ校訂のペータース版は、アラウによるトリルの分解がエキセントリックで、また、指使いも尋常ではありません。アラウの熱烈な支持者以外にはちょっと無理かもしれません。

前回触れたヘンレ版は新しくマレイ ペライヤ校訂のシリーズが出ています。こちらもまだ全曲は揃っていませんが、さすがペライヤだけに、指使いを見るためだけに購入しても価値があることでしょう。

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