ピアニストは長生き

長生きなピアニストは多い。90越えで演奏会を開いた、ルービンシュタインホルショフスキー、プレスラーは特別としても、80越えのアシュケナージポリーニアルゲリッチなどまだまだ元気の様子。少なくとも認知症になったピアニストは聞かない。

 

ピアニストの作業を分解してみると、楽譜を鍵盤に移すのは声を出して本を読むようなものだが、出てくる音を自分の思うように奏でるところは、声楽家にも似ている。楽譜を読んで頭の中で音楽を膨らませ、実際に演奏する際には複雑な和音や声部進行を一部覚えなければならないので、記銘力の訓練にもなる。

 

肉体的には自然で疲れにくい座位の姿勢ではあるが、野球のピッチャーのように腕と手首を使うだけではなく、指を個々に動かす必要もあり、脳の中の視覚、聴覚、運動の広い領域をまんべんなく使っている。

 

老齢になってくると新しい曲に取り組むのはなかなか難しいとしても、既知の曲をさらうだけでも老化防止に効果的であることは容易に想像できる。名曲を思う通りに弾けたら、感動してセロトニンも分泌されるであろう。いいことづくしである。

 

不思議なことに、若い頃よりも老齢に達した方が感動的な演奏をするピアニストが多い。気持ちよりも指が先に行く傾向があると、作曲家の意図を掴み損ねることがあるからだ。また、高齢になってくると他人の意見に左右されることもなくなり、自分の感情の赴くままに演奏できるようになってくるのも、その理由かもしれない。

 

ピアノを演奏することの利得は計り知れない。

 

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