生誕250年

史上最も人気のある作曲家の一人、ルートヴィッヒ  ヴァン ベートーヴェンは、今年の12月17日で生誕250年を迎えます。本来ならば世界各地で盛大に演奏会が行われることでしょうが、今年はそんな訳には参りません。

 

静かに演奏するだけの器楽曲ならまだましですが、合唱となると最も危険です。マスクをしたままでは声が通りませんし、どうしようもありません。ベートーヴェンの最もポピュラーな曲が演奏不可能になってしまっています。

 

よく「密を避ける」と言いますが、呼吸器感染は口から出た飛沫が最も危険ですから、人が集まっても黙っておれば大丈夫な訳です。通勤電車や病院の待合では、隣同士でお話をしないことを心がけるだけで、感染リスクは大きく減るでしょう。

 

ベートーヴェンピアノ曲で作品番号が付いている(出版された)ものは、32曲のソナタ、6曲の協奏曲のほかにも少数ながら面白い曲があります。協奏曲が6曲というのは、ヴァイオリン協奏曲のピアノ版(作品61a)を含むからです。

 

例えば作品129のロンドト長調。副題として「失われた小銭への怒り」という変てこな名前が付いており、曲想もそれらしい爆発を感じさせます。技巧的にも弾き甲斐のある曲です。ただしこの題はもちろん他人がつけたもので、怒りっぽかったベートーヴェンへの当てこすりかもしれません。

 

作品39の「すべての長調のための前奏曲(2曲)」は、作品番号付きにしてはマイナーな曲です。まるで転調の練習のようで、バッハやショパン前奏曲を想像する向きには肩透かしを食らわされます。

 

ベートーヴェンの名曲は、大体が特定の個人への想いが投影されています。それは献呈者を見ればわかります。男性の場合はパワフルな曲(ピアノソナタでは21番、23番、26番、29番など)、女性の場合は叙情的な曲(4番、14番、24番、28番など)になります。特定の個人を思い浮かべているのに、それが隠されていることもあります。

 

特に女性に対しては恋愛感情が隠れていますので、甘く切ない曲になることが多いです。最後の恋人と推定される女性に捧げられた「ディアベリ変奏曲」はさながら愛の叙事詩です。興味を持たれた方はこの曲の最後の方を聴いてみてください。

 

このような人間臭さがベートーヴェンの人気の秘密かもしれません。

 

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