切開による乱視矯正

最近発売されたアルコンの多焦点レンズ、ビビティ(Vivity)は焦点深度拡張型で、遠方に合わせた場合、近くは60cmくらいの中間距離までしかピントが合いませんので、読書には近く用メガネが必要な場合もありますが、コントラスト感度の低下が少なく、ハロ、グレアも少ないとされていますので、お勧めしやすいレンズです。

 

欠点はトーリックレンズがまだ用意されていないことで、角膜乱視が強い症例には使用できません。多焦点レンズの場合裸眼視力をきっちり出すためには、最低でも乱視1D以内が望ましいとされています。2焦点のテクニスマルチも同様です。

 

これらのIOLをどうしても使いたいけど角膜乱視が大きい場合、方法がない訳ではありません。それが強主経線切開による乱視矯正です。

 

角膜の端を切開するとその部分の角膜が局所的に平坦化し、全体の角膜曲率に影響を及ぼします。この影響は切開幅と中心からの距離に依存しており、角膜輪部で2mm以下の切開では影響がほぼ0(乱視中立)、2.4mmでは0.5D、3.2mmでは0.8D、6mm強膜切開では1.5D程度になります。そこで、強主経線の部分を狙ってこれらの切開を行うことにより、乱視矯正を行うことができるのです。

 

今日は1.5Dの直乱視の患者さんにビビティを使用しました。そこで、あらかじめ測定した強主経線をきっちり跨ぐように、6mmの強角膜切開を行いました。乱視矯正は角膜のフラット化が目的ですから、大きく傷を開けても縫合したら意味がありません。必ず、自己閉鎖創にしなければなりません。

 

切開法による乱視矯正の量はトーリックレンズほどの正確性がある訳ではありませんが、トーリックレンズのような軸ずれ(術後にIOLが回転して軸がずれること)はありませんので、2Dくらいまでなら多焦点の術後に耐えるだけの乱視矯正を行うことが出来ます。

 

術後の乱視は±1D以下で良い訳ですから、多少の誤差は全く問題ないのです。強主経線切開はIOL手術にとって大きな武器になります。

 

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