シューベルトの歌曲「小人(Dwarf)」

いつもお昼休みには音楽を聴くか、ピアノを弾くか、近くのジムで汗を流します。

じっくり聴くにはCDよりやっぱりLPです。LPとは昔のアナログレコードのことで、なぜ今更と思われるかもしれませんが、実際にCDよりも音がずっと良いのです。

特に、1960年前後に製作された海外盤(イギリスまたはアメリカ)が良質です。

最近凝っているシューベルトのLPを引っ張り出して、歌曲のあれこれを聴いていると、とんでもない名曲に巡り会いました。

ただ聴いているだけで、目元が潤んでくるのです。歌詞をなぞりつつ2度、3度と聴き惚れました。歌詞をネットから引用して見ます。


薄暗い光の中で山々はもはや視界から去ろうとしている。
船が滑らかな海の波間に漂っている、王妃と彼女の小人を乗せて。

王妃は空高く広がる丸天井を見上げ
銀河が青白く流れる星の瞬く夜空を眺めた。

「星たちよ、おまえたちは一度も私に嘘をついたことはなかったね」、
と王妃は叫ぶ。「”もうすぐ私は死ぬだろう”、とおまえたちは私に言ったね、
そのとおり私は喜んで死んでいく」。

そのとき小人が王妃のもとへやってきた、そして
赤い絹の紐で彼女の首を縛ろうとして、泣きだした、
あたかも、悲しみで失明するかのごとく。

小人は語った、この苦悩の責任はあなたにあります、
あなたは王のために僕を見捨てたのですから、
今、あなたの死が、唯一、僕の幸せなのです。

たしかに、僕は僕自身を永久に恨むことでしょう、この手であなたに死を与える僕を、
しかし、あなたはやはり若くして死ななければならないのです。」

王妃は若い生命溢れる胸に手を当て、
目からは重苦しい涙が止め処もなく流れ、
彼女は祈りつつ天に昇ろうとする。

「私が死んでも苦しまないように」と王妃は言って、小人の青ざめた頬に接吻し、
まもなく彼女は意識を失った。

小人は死に捉えられた王妃を見つめると、自らの手で彼女を海の底へ沈めた。
小人の心は王妃への想いで激しく燃えていた、
小人はもはや、どの岸辺にも姿を見せることはないであろう。
                                (作マティアス コリン 訳:原田英代


実はこの小人はシューベルト自身です。25歳のシューベルトは貴族の娘に叶わぬ恋をしていました。
自分は身分も低く、ずんぐりむっくりの醜男だったのです。戦慄の音楽でした。

聴いたLPはフィッシャー ディースカウが23歳の頃の演奏で、英オリジナルのモノラル盤です。
まるで目の前で歌ってくれているかのような臨場感です。

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