楽興の時?

Moment Musicとは、シューベルトラフマニノフの楽曲の名前で、「湧き出た音符」あるいは「小さい曲」などの意かと思います。ところが、日本語訳は「楽興の時」ということになっており、なんやら意味が不明です。誤訳の典型例かと思います。日本語にはこんな例がとても多いのです。

したがって、外来語はもともとの言語に当たってみなければ、本当の意味は判りません。

Musicは音楽または楽譜、Momentは「瞬間」とか「少し」という意味ですので、Moment Musicが「楽興の時」などと訳せるはずもないのです。楽興の時を英訳するとすれば、Musical Time (Event) とでもなるでしょうか。

シューベルトの楽興の時に当たってみると、全6曲とも一筆書きの音楽のような、瞬時に湧き出た楽想を書き留めたかのようなものです。いろいろと作為を凝らさず、展開もほどほどに、完璧なまでの音楽性を感じさせます。同じシューベルト即興曲(Impromptu)よりも短く、こちら(いわゆる楽興の時)のほうがよほど即興的です。

日本語という閉ざされた言語空間ではなく、英語で意味を見直し、考えることが、国際的思考のためのイロハのイかと思います。

シューベルトは最も好きな作曲家です。この人の作品を弾いていると、幸せのあまり、時の経つのを忘れてしまいます。

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