現代ピアノの代表選手たるスタインウェイが出来たのは1850年くらいで、ショパン、シューマンあたりはこのピアノを知りません。ベートーベンやモーツァルトの時代、ピアノはフォルテピアノ(又はクラヴィコード)と称して、現代とは全く異なった楽器でした。バッハに至っては、ピアノとは似ても似つかぬチェンバロのために作られた曲で、2段鍵盤のためのゴールドベルク変奏曲など、現代ピアノでは事実上演奏不可能なはずです。
これらの作曲家の書いた鍵盤音楽を現代のピアノで弾くのは、作曲家の意図とは異なりますので、何らかの折り合いを付けざるを得ないのです。ベートーベンやバッハは純音楽を書いたのだから、表現力のアップした現代ピアノでは当時よりもふさわしい表現が可能だとかいうのは、単なる詭弁に過ぎません。
とはいっても、古典時代のピアノは博物館にしかありません。現代のピアノで古典の曲を弾く際には、楽譜に書かれた通りにこだわっては無理がくることもあります。
有名なのが、ベートーベンによるペダルやメトロノームの指示でしょう。ベートーベンの時代のピアノはダンパーペダルの機能が今ほどではありませんでしたので、和声が変わっても踏み続けることが可能でした。現代のピアノだと混濁してしまって聞くに堪えません。月光ソナタやワルトシュタインソナタの終楽章などに見られます。
タッチが軽く、音量が小さい昔のピアノでは可能だった速度も、現代ピアノだと速すぎ、演奏困難です。ハンマークラビアソナタがその例です。
ベートーベン、シューベルト、メンデルスゾーン、ショパン、シューマン、リストなど、後期古典〜ロマン派の作曲家の作品がピアノ音楽としては最も優れていると感じます。近代ピアノの黎明期、その性能が作曲家のインスピレーションを刺激したのでしょう。
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