加齢による屈折異常、変化

「見えにくい」と患者さんが訴えておられる場合、1)メガネをかけても見えにくい場合と2)裸眼だと見えにくい場合のどちらかです。1)は屈折異常以外の原因が考えられ、2)は屈折異常が原因です。1)と2)を区別することは眼科診療の基本中の基本です。

 

50歳を過ぎると出てくる老眼は屈折異常の一つです。その原因は水晶体の硬化です。水晶体が硬くなると、毛様筋の収縮運動により水晶体の厚みを膨らませ、近くにピントを合わせること、ができなくなります。

 

水晶体は高齢になると硬くなるだけではなく、屈折力も変化します。一般にレンズの屈折力(光路を曲げる力)はレンズ素材の光屈折率とレンズ表面の曲率によって決まりますが、加齢によりまず水晶体の中味の屈折率が低下しますので、本来の屈折力を維持するために水晶体の前、後面の曲率が大きくなり、水晶体の容積が増加します。これが、先週の記事にあるような、狭隅角の成因です。

 

このように、老化とともに水晶体の屈折率が低下し、屈折は遠視化するのが基本ですが、中には白内障の進行とともに近視化する場合もあります。これは水晶体の中心部分の光屈折率が混濁とともに増加する現象で、「核白内障」と呼ばれます。

 

白内障になると近視化するので、一時的にせよ「老眼が治った」ような効果を感じることがあります。

 

加齢による水晶体の硬化は、当然推量されるように、水晶体の形の不均衡を伴うことが多いので、乱視や高次収差が増える傾向にあります。

 

以上、加齢による屈折変化は主に水晶体が原因であり、老眼、遠視化、近視化、乱視の増加と多彩です。すべて裸眼視力に影響するので、「ボヤける」「見にくい」との症状が出ます。最初は冒頭の2)相当ですが、白内障が進行するとともに1)も加わってきます。

 

加齢による屈折異常は水晶体の老化が原因ですので、その治療は白内障手術が第一選択となります。60歳以上でも時にLASIKを希望される患者さんがおられますが、水晶体を残したままでは屈折が安定しませんので、白内障手術をお勧めしています。

 

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