弾いても弾いてもうまく弾けない。同じ曲を何回弾いても、同じところがつっかえる。こんな悩みは、アマチュアならば尽きることがありません。ドイツの名ピアニスト、ギーゼキング(1895〜1956)の自伝を読むと、物心ついた頃から、どんな曲でも初見で弾けたとのこと。また、2〜3回弾いたら暗譜できたとのこと。すごいですね。
しかしながら、ギーゼキングはいわゆる「公教育」の学校には行ってません。読み書きは親に習って、あとは自習したとのことで、子供の頃からピアノの練習と蝶々の採集ばかりしていたそうです。まあ、それだったら、ピアノが上達するわけです。
ギーゼキングにとって、チェルニーやハノンなどの練習曲は全く退屈で、ある時点で卒業したあとは、一度もそのような曲をさらったことはないと自伝に書いてあります。第一、練習しなくてもどんな曲も弾けたわけですから。
しかし、我々アマチュアにとって、ピアノの練習に割ける時間は限られており、短い時間でいかに上達するかが問われています。そのためには、やっぱり、練習曲が欠かせません。
あのショパン(1810〜1849)でさえ、生徒にはいろんな練習曲を勧めました。それだったら、ショパンが使った練習曲が最も効果的には違いありません。
エーゲルディンゲルによると、ショパンが生徒に勧めたのはクレメンティ(1752〜1832)の「前奏曲と音階」練習曲、モシュレス(1794〜1870)の作品70、クラーマー(1771〜1858)、それにバッハの「平均律」などでした。自分自身の練習曲「エチュード作品10、25」は、よほど進んだ生徒にしか弾かせなかったらしい。
思うに、なぜ練習曲が必要かというと、自分の好きな指使いでばかり弾けない曲にわざとしてあるので、弱い指の訓練に適しているからではないでしょうか。
ショパンに倣って、モシュレスの作品70やクレメンティの「グラドス アド パルナッスム」を毎日弾くようにしています。モシュレスの作品70−15はショパンの愛奏曲だったそうです。
モシュレスは人の好いおっさんという感じで、ショパンはモシュレスが大好きでした。作品にはショパンのような鋭さはもちろんありませんが、ショパンにも影響を与えています。
モシュレスの作品70-3は1、2、3指による半音階の練習曲で、ショパンの作品10-2(3,4,5指による半音階)と対をなしています。ショパンの幻想即興曲はモシュレスの即興曲と似ていることが知られています。
いずれもモシュレスの曲が先ですので、ショパンが真似したのに違いありません。しかし、長調が短調になり、より悲劇的で深刻な音楽になっており、全く別の雰囲気です。私はモシュレスのほのぼの感も好きですが。
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