弟子から見たショパン

表題の本はフランスの研究者ジャン=ジャック エーゲルディンゲルの著作で、ショパンに興味がある人にとってバイブルのような本です。何年も前に読んでましたが、今回、暇にあかせて再度トライしてみました。

 

細かい文字で400ページ以上あり、本文よりも注釈が多いという、決して読みやすい本ではありません。また、ショパンの楽譜に親しんでいるという前提がなければ、終わりまで読み進むのは困難でしょう。高級アマチュア〜プロ向けです。

 

基礎になっているのが、ショパン自身が書いたとされる、ピアノの教則本です。印刷して10ページ足らずの短いものですが、ショパン直筆となれば、注目せざるを得ません。

 

真ん中の3本の長い指が黒鍵、親指と小指が白鍵に位置するロ長調の音階が最も易しく、最初に取り組むべきで、譜読みが最も易しいハ長調が演奏するのは最も難しいとは、刮目すべき見解です。

 

ショパンはパリに出てきてから生活の糧を得るため、ピアノのレッスンに多くの時間を割きました。150名に及ぶという弟子の中には、ショパンが書き込んだ自身の楽譜を大切に保管していた人も多く、それらを調べることで、楽譜の間違い、解釈などもわかります。もちろん、指使いもよく指示されています。

 

ショパンがピアノ技術の中で何を大切にしていたか、初歩ではどんな教則本を使うべきか、毎日何時間練習するべきか、どんな曲を取り上げるべきかなど、弟子の証言からわかってきます。

 

レッスン中にしばしば、装飾音や対旋律を書き加えたことが残されており、中には、元の楽譜を書き換えてしまったものもあります。例えば、ワルツ3番(イ短調)の8小節目などです。ドイツ初版を基にしたヘンレはオリジナルですが、エキエルはショパンが弟子に示した対旋律の付加を標準としています。後者が一般に知られている形です。

 

ショパンの弟子の大多数が貴族の子女で、プロのピアニストは少数であることは、取り上げられた曲でわかります。多いのがノクターン、ワルツ、マズルカなどの中でもゆっくり目の、素人が手を出しやすい曲だからです。

 

この本を熟読すると、ショパンから直接レッスンを受けているような気持ちになるとは、現代のプロのピアニスト、バドウラ=スコダ氏の感想です。

 

しばらく絶版になっておりましたが、近々、音楽之友社から改訂増補版が出版されるとかで、楽しみです。

 

この本に見られる研究成果を反映している楽譜がエキエル版で、今や最も正統であり、ショパンコンクール推薦楽譜になっています。

 

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