山椒と麻酔


新型コロナウイルスによりGWは外出ができませんでしたので、興味のあることを勉強してみました。

その事を綴ろうと思います。



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外出自粛要請が出される前、有馬温泉へ行きました。

関西在住の方ならご存知だとは思いますが、有馬温泉には様々な名物があります。

その中でも有名なものといえば、炭酸せんべい、有馬サイダーなどでしょうか。

温泉街を歩いていると、『山椒彩家』という山椒の専門店を見つけました。


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(山椒彩家HPより引用)


私は知らなかったのですが、有馬の山椒は歴史があって有名だそうです。


店内には挽きたての山椒の香りが立ち込めており、美味しそうなものがたくさん置いてありました。

その中でも特に気になったのが『辛皮』という商品です。


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(山椒彩家HPより引用)


一般的に食べられるのは山椒の『実』や『新芽』ですが、辛皮は山椒の『樹皮』を佃煮にしたものです。

買って帰り、開封してみると、内部に注意書きが……


“辛皮を食べますと、しばらくして舌がしびれて味を感じられなくなることがあります。

これは、山椒に含まれる天然成分のためで山椒の特色でもあります。

しばらくすると味覚は戻りますので、安心してお召し上がりください。”


味を感じられなくなる……?

流石にそんなことは……


恐る恐る食べてみました。

口に入れると、最初は甘辛い佃煮の味が。


ところが15秒ほど噛んでいると、舌がビリビリするような、異常な感覚が出てきました。

佃煮の味はもうしません。


辛皮を噛みしめながら、私は感じました。


これが局所麻酔だと。


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山椒の実や新芽にはサンショオールという口を痺れさせる成分が含まれています。

恐らく樹皮には、実や新芽よりも多くのサンショオールが含まれているのでしょう。



医療用に用いられる局所麻酔薬には多くの種類がありますが、共通して3つのパートから構成されています。

①芳香族残基

②アミノ基

③それら2つを結ぶ中間鎖


芳香族残基は疎水性のため、細胞膜の通過に関係します。

細胞膜を通過した後、アミノ基がナトリウムチャネルに結合することで麻酔効果を発揮します。


当院で使用しているベノキシール®️点眼液の成分、オキシブプロカインを例に見てみましょう。


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(genome.jpより引用)


芳香族残基とアミノ基がエステル結合しています。よく効きそうですね。


一方で、サンショオール。


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(genome.jpより引用)


私は化学に関して全くの素人ですが、芳香族残基もなく、割と違う印象です。

アミノ基の形も違うので、調べてみたところ、やはり別のカリウムチャネルをブロックするようです。



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川に毒を撒いて魚を獲る伝統漁『毒もみ』の『毒』にも山椒が用いていたそうです。

サンショオールを医療用の麻酔に使うのは無理そうですが、山椒は日本に根付いた麻酔文化であると感じました。



ちなみに辛皮は苦手だったのでほぼ全て残っています。



S.K.