月光ソナタ

月光ソナタ、作品27-2、嬰ハ短調は、ベートーベンの数あるソナタの中でも最も有名です。この題名(月光)は、ベートーベンが付けたのではもちろんなく、発表直後に誰かがインスピレーションを得て引用したものを、楽譜出版社が採用したもののようで、当時から注目を集めた作品だったようです。今でもスケートリンクにおける定番ですし。

 

この曲はピアノ学習者が使う「ソナタアルバム」第二巻に含まれていますので、誰でも一度はトライしたことがあるでしょう。しかし、1楽章はなんとかなっても、3楽章は無理とあきらめた方も多かったと思います。

 

分散和音の上行で、ハ長調ならばいともたやすいですが、嬰ハ短調となると親指で黒鍵を弾かなければならないので、とたんに難しくなるのです。

 

さらに、ベートーベンの指示で「右ペダル使用不可」となっており、ペダルでごまかすわけにはいきません。

 

古典の時代、黒鍵を親指で弾くのは邪道とされていたところ、ベートーベンはあえて挑戦し、類まれな効果を得たのでした。

 

次の世代ではあたりまえになる、近代的なピアノ奏法を開発した一人がベートーベンでした。

 

同じように有名な、ショパンの幻想即興曲嬰ハ短調という意味では同じコンセプトです。ベートーベンの月光に似すぎているので、出版出来なかったとの説があるくらいです。

 

3楽章の分散和音はある程度手が大きくなってからでないと弾けません。小学生の低~中学年で取り組むには無理があるのです。

 

この音型を拡大したのがショパンの練習曲作品10-1です。こちらは易しいハ長調ですが、音域が10度と拡大され、ところどころに出てくる親指黒鍵の部分は非常に大きな手を要求されます。この曲も、月光ソナタを意識したものと思います。

 

誰でも知ってる月光ソナタは意外と難しいので、プロのピアニストでも神経を使うようです。クラウディオ アラウが晩年に録音したベートーベンソナタ全集で、高齢のため再録音が出来なかった2曲が、「ハンマークラビアソナタ29番」と月光ソナタでした。

 

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