古今東西、ピアノの名曲は多数ありますが、中でも最も好きな曲のひとつが、ショパン作曲ピアノソナタ2番「葬送ソナタ」です。
ソナタはウィーン古典派の楽曲形態ですから、ハイドン、モーツアルト、ベートーベンなどが多数作曲しています。ベートーベンから時代はロマン派となり、内容が叙情的、劇伴的なものも多くなってきました。劇の情景がうかぶような曲のことです。代表はベルリオーズ作曲の「幻想交響曲」とされています。
さて、ロマン派のシューマン、ショパン、リストの時代、ソナタは古典的均整感と叙事詩的発想の間で揺れることになり、これらの作曲家は「ソナタ」というものをそれほど作曲できなくなりました。ショパン、シューマンはそれぞれ3曲、リストに至っては1曲のみです。
ショパンの3曲のソナタのうち、1番と3番は古典的なソナタ形式が強く出ており、ベートーベンをややピアニスティックにしたような感じもあります。しかし、2番のみ突出して劇場的な発想が見られます。この曲を聴いてシューマンは「脱帽した」と述べたように、古今東西のピアノ曲の中でもとびぬけた名曲と思います。
全4楽章のうち、第3楽章は葬送行進曲です。では、一楽章はどうでしょうか。ドーンという音で始まり、急き立てられるような脅迫感をもった主題が続きます。途中、なごやかなムードになる時もありますが、最後はハンマーが打ちおろされ、明らかに「何かが終わった」と思わせる、悲壮感が漂います。
2楽章は悪魔か魔女が踊り狂います。ピアノの技巧的には大きな跳躍が有名です。
3楽章の葬送行進曲のあと、4楽章はよく言われるように、まるで墓場で人魂がひらひらと揺れている感じがあります。
人間の死の一部始終を音楽にしたと言えましょう。なんと恐ろしいことでしょうか。
この曲の演奏では、これらのことがどうしても頭をよぎります。
ちなみに、ベートーベンのソナタ12番「葬送」と聴き比べますと、あまりの違いに唖然とすることでしょう。
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